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【Medical Report/北方ジャーナル】2020.06.  北海道整形外科記念病院の新院長・近藤真医師に訊く

2020年05月22日

北方ジャーナル2020年6月号掲載(5月14日発売)



連携を深め尊敬し合うチームで全ての患者に最善の医療を提供
北海道整形外科記念病院の新院長・近藤真医師に訊く


Medical Report


国内有数の整形外科専門病院として知られる医療法人北海道整形外科記念病院(札幌市・225床)の新院長に前副院長・近藤真医師(58)が就任した。これまで院長を兼任していた加藤貞利理事長から抜擢され、次代のマネジメントを託されたかっこうだ。上肢治療を専門とする近藤院長は大学時代に準硬式野球のピッチャーとして活躍し、リトルシニアリーグのチームドクターも務めるスポーツマンでもある。「新しい風を吹き込みたい」と意気込む近藤院長に、トップとしての抱負をはじめ気になるウイルス防止対策、上肢疾患治療の実際を訊いた。(4月22日取材)


 


「チームワークの良さは医療の質の向上につながる」と語る近藤院長

こんどう・まこと
1989年北海道大学医学部卒業。新日鐵室蘭総合病院、NTT東日本札幌病院を経て2003年北海道整形外科記念病院勤務。15年同病院理事・副院長を経て20年4月院長に就任。新琴似リトルシニアリーグチームドクター、日本整形外科学会専門医、日本手外科学会認定医、同学会代議員、日本膝肘関節学会評議員、北海道肩研究会監事。58歳


 

 

世代交代で新しい風を


──加藤理事長が兼任されていた院長ポストを4月から引き継がれた。今回の院長交代はどのような意味があると考えますか。


 近藤 ひとりの人間が長くトップを務めると、どうしても現状維持になりがちです。そのことは誰よりも加藤理事長が自覚しておられた。その上での世代交代、病院に新しい風を入れるための人事と受け止めています。半年ほど前に理事長から打診されていたこともあり、心構えはできていました。一方で医療人として尊敬する加藤先生の後任なので、正直プレッシャーはあります。


──理事長が築いてきた土台を踏まえて、どのような病院づくりを。


 近藤 月並みな言い方になりますが、「患者さんも職員も笑顔で治療を終える」ことが医療の基本だと考えています。各部署の職員が今まで以上に連携を深めながら協力、尊敬し合ってバランスの良いチームを構築していく。そのキャプテンとして舵取りをしていきたい。


──元々チームワークのいい病院として知られています。


 近藤 その象徴のひとつが院内でのセカンドオピニオンの実践です。私たちは、もし担当医師の説明に不安があれば、遠慮せず別の専門医の判断も仰ぐように患者さんに勧めています。患者さんにとって最善の治療が何かを考え、それをチームとして提供する環境を整えているのがこの病院の良さだと自負しています。


──2018年にサテライトとしてJRタワーオフィスプラザ8階に附属医院(JRタワークリニック)を開院された。以後、こちらの本院との連携はいかがですか。


 近藤 去年までは本院から分野別の専門医を派遣できるのは月に1回程度でしたが、今春から同じ医師が同じ曜日に診療できる体制になりました。


──本院で手術した患者の予後をJRタワーで診るイメージ。


 近藤 本院は道北や道南など全道各地から患者さんがいらっしゃいます。そんな皆さんの便宜を図るために、最近では経過を診るのが中心であればサテライトで対応するケースが増えています。また昨年までは、サテライトで診た患者さんは、さらに本院を受診してから手術や検査の日時を決めていましたが、今は向こうで手術日などを決め本院で入院、手術という流れができてきました。


──ところで猛威をふるっている新型コロナウイルス感染症ですが、院内の感染防止にはかなり気を遣っているのでは。


 近藤 今回は感染力が強いやっかいなウイルス。感染しても無症状の場合もあり、扱いはナーバスにならざるを得ません。当然、スタッフ各自の手洗いや院内の消毒は今まで以上に気を使うようにしています。
 外来患者をはじめ来訪者全員の体温チェックを玄関入口で行なっており、37・5度以上ある場合は医師の確認後帰宅してもらい、それ以下の微熱であれば別室に案内して対応する。さらに入院患者を外界と完全にシャットアウトするため家族であっても面会を禁止し、患者も1階に降りてこない措置を取り、リハビリなどでどうしても階下に降りなければならない時は、時間をずらして調整しています。


──整形外科とはいえ、入院患者の中には内科的な基礎疾患を抱える人もいる。


 近藤 今はリスク管理を徹底するため、あえて病床の稼働率を7、8割に抑えています。これは熱が出た患者さんを他の部屋に振り分けるためです。これまで入院中にPCR検査をした人は出ていませんが、退院後に発熱し検査を受けた人はいます。もし陽性なら院内で感染したことになるところでしたが、幸いなことに結果は陰性でした。


──北海道がんセンターなどでクラスターが発生し、札幌も一部の医療機関が機能不全に陥っています。


 近藤 新型コロナウイルス感染症の患者さんに医療のリソースが集中し、それ以外が手薄になると文字通り医療崩壊につながります。
 最近では東京の都立墨東病院で院内感染が広がり4月21日に救急救命センターが閉鎖されました。墨田区など周辺3区で唯一救急を行なう拠点が機能を停止すると、他の病院に分散するしかありませんが、そこもまたパンクするという悪循環を招きかねません。


──病院には感染が疑われる人が怪我などで搬送されてくるリスクもある。


 近藤 搬送されてきた患者さんに熱があるので処置を断ったというケースが札幌の救急病院でも出ています。現下の情勢に鑑みて、日本整形外科学会では救急度に応じて手術の優先順位を決めるトリアージの目安を指導しています。発熱していたり感染を疑われる人は致命的な病気でなければ2週間くらい処置を延期し、様子を観察し熱が下がっているのを確認してから手術をする。こういうことを徹底しなければ医療従事者の感染を防ぐことはできません。


 


院内マネジメントの世代交代を図った加藤理事長

 


「五十肩」の8割とされる、滑液包に炎症を起こす「肩峰下滑液包炎」

 


スポーツ経験があるスタッフも多いリハビリテーション室

 

「野球肩」「五十肩」を治す


──ところで近藤院長は上肢治療を専門とされています。


 近藤 子供の頃からずっと野球が好きで、北大医学部でも医者を目指しながら野球をやっていました。整形外科の医師は結構そういう人間が多い(笑)。そういう経験もあって今は中学の硬式野球・新琴似リトルシニアリーグのチームドクターも務めています。


──準硬式野球で4年の時にはピッチャーとして全道1部リーグを制覇し、東日本医科学生総合体育大会で優勝するなど活躍されたとか。ご自身も肩の痛みなどで苦しんだのでしょうか。


 近藤 幸いなことにほとんどありませんでした。当時、一緒にやっていた仲間から「近藤はフォームがいいから肩を痛めない」と言われたことはあります。


──よく「野球肩」という言葉をよく耳にします。


 近藤 人間の成長期では骨の成長部分である骨端線という部分から骨が発達します。ここは成長期に一番伸びるため一時的に構造が弱くなるのですが、その時期に過度の投げ込みなどでストレスがかかると肩の部分の成長軟骨に骨折のような現象が起きます。レントゲン検査をすると、骨端線が乖離している所見を確認できます。症状としては痛みを伴いますが、早く見つけ2カ月程度投げないでいれば、ほとんど自然に治ります。


──深刻な症例はありますか。


 近藤 野球少年で肩の手術が必要なほど悪化するケースは、ほとんどありません。手術が必要になるのは肘の靭帯や神経の疾病で、小中学生くらいまでは靭帯の障害のように思えるほとんどが神経の障害です。
 ボールを投げる動作は、一番神経が突っ張る姿勢なので、その繰り返しで神経が引っ張られていくと投げた時に痛みを感じるようになります。一般の人が同じ病気になると多くが痺れが出ますが、野球による場合は痺れより痛みを感じます。


──スポーツドクターとしての仕事はどのような。


 近藤 先述した新琴似シニアリトルリーグでは、まず監督が選手たちの不調のサインを見逃さないようにする。そのうえで受診が必要と判断された子供さんを私が診るという流れです。
 いま道内では北大が中心となって少年野球チームに超音波機器(エコー)を持ち込み検診する体制ができています。この段階で障害が見つかると専門医を受診してもらうようにしているので、最近は重症化してから訪れる子供は少なくなりました。


──「野球肘」という障害もよく聞きます。


 近藤 繰り返しボールを投げることで肘の外側で骨同士がぶつかり骨や軟骨がはがれる障害です。痛みを我慢して投げ続けると症状が悪化し肘が使えなくなることもあるので、発症したらまずはボールを投げさせないことが大事です。


──成人の疾患で注意喚起したいものは。


 近藤 いわゆる「五十肩」と呼ばれる50歳前後の人に多い障害です。肩の関節を構成する骨や軟骨、靭帯、腱などが老化により周辺に炎症を起こすため痛みを感じ、動かさないでいると関節包(関節を囲んでいる袋状の被膜。外側は線維性膜で内側は滑膜で構成される)が癒着してしまう疾患です。
 何も損傷がなければ癒着がはがれ良くなることもありますが、症状が出てから3カ月も放置してから受診すると腱板(肩甲骨と上腕筋をつなぐ4つの筋肉の総称。肩関節を安定させ動かすための重要な役割を担う)の部分に損傷が認められることもあります。


──治療はどのように。


 近藤 腱板が断裂していたら根本から治すには手術しかありません。ただMRIを撮って表面がボソボソしている程度の炎症ならすぐに手術の必要はなく、湿布や投薬、注射、リハビリでしばらく様子をみます。


──これまでの野球との関わりが上肢疾患の専門医としての後押しなったようですね。


 近藤 そうだと思います。痛みを訴える少年の中にはコーチからちゃんとした投げ方を教わっていないケースも見受けられる。そんな場合は、診察室でタオルを持たせシャドーピッチングをやらせて腕の振り方を見ながら指導することもあります。以前は治療して良くなった子供に駐車場の空きスペースで、実際にキャッチボールをしてフォームを教えたりしていました。私たちの病院には野球経験のある理学療法士もいるので、リハビリの面でも安心してもらえると思います。


──近藤院長による新たな舵取りに注目しています。


 


医療法人
北海道整形外科記念病院
札幌市豊平区平岸7条13丁目5の22
TEL:011-812-7001


 

 

 

 

 

 

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