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【Medical Report/北方ジャーナル】2021.05. 時計台記念病院に新規開設された 泌尿器科の平川和志医師に訊く

2021年04月30日

北方ジャーナル2021年5月号掲載(4月15日発売)



時計台記念病院に新規開設された泌尿器科の平川和志医師に訊く
手術支援ロボット ダヴィンチで取り組む最新の前立腺がん治療


Medical Report


社会医療法人社団 カレスサッポロ(大城辰美理事長)が運営する時計台記念病院(中央区・藤井美穂院長/250床)に4月1日、泌尿器科が新たに開設された。これに伴い同科の低侵襲手術センター長として手術支援ロボット「ダヴィンチ」を用いた手術で国内トップクラスの実績を持つ平川和志医師が就任。3年後の北光記念病院との病床統合、新病院開業を睨み、泌尿器科分野の悪性腫瘍を治療する体制がハード、ソフトともに整備された。この平川センター長を訪ね、泌尿器科開設にかける意気込みとダヴィンチ手術の可能性について訊いた。(3月26日取材)


 



ひらかわ・かずし
1956年広島県出身。84年北海道大学医学部卒業。北大病院、国立札幌病院などを経て97年から恵佑会札幌病院泌尿器科部長。2010年院長、18年副理事長。2021年4月時計台記念病院泌尿器科顧問・低侵襲手術センター長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本ロボット外科学会 専門医国内A級認定


 

 

熟練のダヴィンチ手術で泌尿器の悪性腫瘍に対応


 カレスサッポロはJR札幌駅近くの旧協同組合札幌総合卸センター東3丁目街区(東区北6条東3丁目)の跡地1万1964㎡を取得。2022年春から時計台記念病院と北光記念病院を統合した「カレス国際医療センター札幌病院(仮称)」の新築工事に着手し、24年6月のオープンを予定している。
 このほど時計台記念病院が泌尿器科を新設した背景には、3年後の病院統合を見据え、これまで手薄だった泌尿器科領域を充実させる狙いがある。この分野の診療、とりわけ前立腺がんや膀胱がん、腎臓がんなど悪性腫瘍に対する治療体制を確立していく考えだ。このほど同病院泌尿器科・低侵襲手術センター長に就任した平川医師は、そのための中心的役割を果たしていくことになる。
「今後、カレスサッポロとして新病院では悪性腫瘍の分野においても第一線の治療を行なっていく方針と聞いています。微力ながらその中で貢献していきたいと考えています」(平川医師・以下同)
 平川医師は広島県出身。関西圏の大学の工学部に進んだが、医師になるため2年で退学し、北海道大学医学部に再入学。技術を習得し磨き上げていく外科領域の医療に惹かれ卒業後は同大医学部泌尿器科に入局した。道内の公立病院勤務などを経て1997年に恵佑会札幌病院に泌尿器科部長として赴任。2010年に院長、18年副理事長を歴任し臨床の第一線で活躍してきた経歴の持ち主だ。このほどカレスサッポロの求めに応じ、4月から時計台記念病院・泌尿器科を率いる立場となり、同科には同じく恵佑会札幌病院から谷口明久医師、手稲渓仁会病院から間山郁美医師が入職し3人体制で診療に当たる。
 対象疾患は前述の悪性腫瘍を中心に前立腺肥大症、尿路結石症、神経因性膀胱、尿路感染症、女性泌尿器科、副腎疾患などの泌尿器科全般だが、特筆すべきは最新の手術支援ロボット「ダヴィンチ」の導入によって低侵襲の治療が実現したことだ。
 道内では手稲渓仁会病院が2011年に初めてダヴィンチによる手術を実施。恵佑会札幌病院は泌尿器科で12年3月にダヴィンチ手術を開始し、平川医師は昨年までの累計で1000件を超す手術を実施してきた。この執刀数は腎・泌尿器系ロボット支援手術で全国3位にランクされている。15年に日本泌尿器科内視鏡学会のロボット手術指導者(プロクター)の認定を受け、数少ないプロクター医師として後進の指導にも当たっている。
 平川医師によると、ダヴィンチの適応となる悪性腫瘍は前立腺がん、膀胱がん、腎がんだが手術の9割は前立腺がんだという。前立腺がんのダヴィンチ治療は2012年4月に保険収載され、標準治療として定着している。
「今やダヴィンチの時代で、前立腺がん手術の70~80%が手術支援ロボットで行なわれています」


 


コンソールでダヴィンチを操作する平川医師

 


谷口明久医師


間山郁美医師

 

男性の中高年期に多いがん 定期的なPSA検査が必要


 男性の膀胱の下にあるクルミ大ほどの大きさの器官で精液の一部を分泌している。高齢になると腫大して排尿障害の原因となることが知られている。前立腺がんは男性ホルモンが関係していたり動物性脂肪の過剰摂取でもがんのリスクが高まるとされており、遺伝的要因はないが、父親や兄弟がこのがんになると発症リスクが高まることが知られており、環境要因の関与も指摘されている。
 初期には症状はほとんどないが、がんの進行に伴い尿道が圧迫されると尿勢低下や頻尿などの排尿困難が起こる。検査は血液中のPSA値(Prоstate Specific Antigen=前立腺特異抗原)を調べる。PSAは前立腺から精液中に分泌されるタンパク質の一種で一部は血液中にも流れ出ており、一般的に4ng/mL以下が標準値とされている。
 PSA値は高くなるほど前立腺がんの確立と進行度合いが高くなり、4~10ng/mL未満だと前立腺がんを発見する確率は25~30%。10ng/mL以上では50~80%、100ng/mL以上だとがんが強く疑われる。このPSA値を踏まえ前立腺がんの疑いがある時は直腸診での触診、エコー検査、МRIなどで画像診断を行なう。「前立腺は男性特有の臓器で、がんになるリスクは50代から高くなるので定期的にPSA検査を受けることをお勧めします。がんの疑いがある時はМRIで画像診断を行ないますが、PSAやМRI検査で大丈夫だからといって、がんがないという証明にはなりません。確定診断には前立腺の一部を生検し、がんの有無を調べることが不可欠です」
 平川医師はこう前置きし、「また前立腺がんは臨床的に悪さをしない大人しいタイプと将来的に問題を起こすものがあるので区別が必要です。70代で別の病気で死亡した人を調べると30%以上で前立腺がんが見つかると言われており、がんがあっても悪さをせずそこに留まり一生を終える患者もいればそうじゃない人もいる。いずれにしても検診で疑わしければ専門医を受診し、腫瘍が見つかったら早めに治療を受けることが大切です」と注意を促している。
 前立腺がんの治療は手術と放射線療法、ホルモン療法の3つがある。がんが転移していない時は手術や放射線療法が選択されるが、転移があった場合はホルモン療法でがんの増殖を抑える方が優先される。


 


前立腺がんの病気別による治療法の選択

 

工学系の平川医師が操る低侵襲な「ロボット手術」


 ダヴィンチによるロボット手術は開腹術より格段と負担が少ない。執刀医は、患者の腹腔内に入れた内視鏡(ロボットアーム)を離れた場所のコンソールで3Dカメラの画像を見ながら操作する。今回、時計台記念病院に導入されたのは最新の「ダヴィンチXi」、従来の機種よりロボットアームが改良されスリムになったことから操作性がより高まった。開腹手術に比べ低侵襲で「痛みや合併症のリスクが少ない」「入院期間が短い」「回復や日常生活への復帰が早い」「傷口が小さく出血が少ない」などのメリットがある。
 「手術では部分切除ではなく前立腺全てと精嚢も切除します。がんは内部にあるため前立腺を外から見てもどこにがんがあるか分からないということと精嚢に浸潤しやすいからです。また、前立腺がんはリンパ腺に転移しやすいため、がんを切除する段階で周囲のリンパ節を全て除去する(リンパ節郭清)場合もあります。これを行なうかどうかで手術時間は異なります。通常は2時間から2時間半ですが、リンパ節郭清までとなるとこれだけで30分から1時間かかるので慣れない医師なら合計4、5時間かかります。手術時間は患者の状態と術者の経験により異なるということです」(平川医師)
 治療の流れは、まず外来で心臓や呼吸器、合併症の有無を調べる。入院後は治療方法などをきちんと説明してから手術を行ない、およそ10日間で退院できる。「ダヴィンチを使えば正確な手術ができるので、出血量が少なく合併症も抑えられます。ただ、退院後のQOLについては最初のうち尿失禁は多くの方にみられます。しかし、この尿失禁は次第に減り、最終的には漏れなくなります。尿失禁についてもロボット手術は回復が早いと思います」



 平川医師に今後の抱負を聞くと、「医師3人体制で悪性腫瘍をメインに診ていく基盤づくりに取り組みたい。泌尿器科の病気には良性疾患と悪性疾患がありますが、ダヴィンチの導入で悪性腫瘍にも十分対応できることになりました。今後は北大病院などとも連携しながら患者さんの治療に当たっていきたい」という答えが返ってきた。
 子供の頃からパイロットに憧れた。目が悪くその夢は諦めたが、技術を身に付けたいと考え大学の工学部に入学。大学では特定の分野に才能を発揮する仲間と自身を比べ挫折した経験を持つ。何ができるかと自問自答しながら、さまざまな分野をオールマイティに行なえる自分に合った職業として医師を目指した。
 泌尿器科の専門医として技術を磨き、近年は学会で前立腺がんに用いるロボット手術をめぐり自分で考案した工夫に関する報告を関連学会に行なうなど研究にも余念がない。
 そんな平川医師のモットーは「優しいだけの医者では患者を治せない」というもの。患者に寄り添うことは必要だが、技術が伴わなくては意味がないという確たる信念だ。
 「病気だけでなく患者全体を診るという医師もいます。でも、きれいごとを言ったり理論を述べても手術で手が動かなかったり、出血が多いようではよい医師といえないと思います。医者の基本は疾患を治すことであり、病気を見逃したら何もならない。それが前提にあって患者に寄り添うことができればいい。優しさを意識しながらも、きちんとした技術を持つ医師でありたいのです」
 4月8日には時計台病院としてダヴィンチを用いた一例目となる前立腺がんの手術が行なわれた。
 患者に高度な医療を提供するため、今なおストイックに技術を向上させようとする平川医師の姿はさながら医療界のパイロットのようだ。
 今日もダヴィンチのコクピットに平川医師は座る。オペという名のフライトに期するのは「安全」と「正確」の2ワードに、ほかならない。





社会医療法人社団 カレスサッポロ
時計台記念病院
札幌市中央区北1条東1丁目2番3号
︎☎︎011-251-1221
 

 

 

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